千丈 仲合、同盟会話
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仲合物語
画巻掩筆
ずっと千丈が絵を描く様子を見たかった。目にしたことがないからだ。
この日、私は彼が絵を描くかどうか確かめるべく、好奇心の赴くままに千丈のあとをついていた。
しかし丸一日かけても、千丈は森で座っているだけで筆に触ったこともない。そしてつい私は枝を踏んでしまった。
千丈:誰だ?
無剣:私です!
千丈:無剣、どうしたんですか?
無剣:その……実は絵の描き方について教えて欲しくて……
でまかせで言ったつもりだが、千丈は喰らいついてきた。
千丈:絵画を学びたいのですか?それはそれは、私が教えてあげましょうか?
無剣:あー……はい、お願いします!
無剣:彼の楽しい様子を見て断れるほど、私は悪魔ではない。
彼の楽しい様子を見て断れるほど、私は悪魔ではない。
千丈:知っておかなければならないのは、絵といっても流派の違いがあることです。絵を学ぶ者としてどれかの流派に所属してしまうのは仕方ありません。淡々な絵を描くか迫力のある絵を描くかは、すべて他人の経験の賜物です。しかし先生の名を名乗るには自分の独特な技法を編み出さなければいけません。
千丈:新たな道を切り開く事は至難の業。古人の法を継いで、自身の道を切り開きはじめて、先生と名乗りえるのです。
無剣:それは…
千丈の話にくらくらしてしまった私は、彼の言っている事がまったく分からなかった。
千丈:なに?
無剣:私にとってちょっと難しすぎたと思います。
千丈:では……あなたは何が知りたいのでしょうか?
無剣:私はまだそのような境地に達していないので、ただどうやって絵を描くかを学びたいだけです。
千丈:う……いい絵を描くには、まずは集中して精神を養い、気力を豊かにしてから、集中された精神全部を筆の末端に注ぎ、心で思った内容すべてを自信の技法で紙に写す必要があります。
千丈:そうすれば、自然と素晴らしい絵が出来上がります。集中した段階で作品を完成させる事ができれば更によく出来上がります。一気にできた作品は最も気合の入った作品なのです。
千丈の話を聞くと、何か分かるものがあった。なにせ武功と似たところがあるからだろう。
無剣:絵を描くのと武功の修行は似たところがありますね。自分の状態を最高まで引き上げないと、最高なパフォーマンスで挑む事はできない。そうでしょう?
千丈:はい、その通りです。さすが無剣ですね!こんなにも早くコツを掴めたとは!
無剣:そんなことないです……ただ修行の経験に基づくでまかせですよ。
千丈:謙虚なさらないでください。これほど理解できれば、すぐに美しく描けますよ。
千丈:早速一枚どうでしょうか?
千丈は喜んで空白の唐紙を一枚広げ、筆と墨を用意した。心身を均衡に保ち、使える力を全部集中しろと私に言った。
そして私は考えている事を紙に描いた。しかし、出来上がった作品は私自身ですら識別できない物であった……
無剣:すみません……
千丈:大丈夫です。では持ち帰って見てみます!
言い終えると何かを思いついたようで、一人去って行った。
作画の道
千丈の教えに沿い、精神を集中し力を筆に集中、そして描きたいものを紙に写す。しかし、相変わらずの大失敗で、出来上がったの考えているものと大きくかけ離れたものばかりであった。
無剣:うあー、どうすればいいんだよ!
つい悩んでしまう私は、目の前の景色を見ると、突然ひらめいた。それから自然にある景色を写し始め、しばらく腕が上がっていく感じがした。
千丈:はぁ……こんなんじゃだめですよ……
無剣:え?千丈さん、来たんですか、さっきはなんと?
千丈:無剣さん、これは絵の練習ですか?
無剣:ほら、だんだんと似てきましたよね?
千丈:ふぅ……このように現実の景色を写すだけでは、絵の魂を失ってしまいます。いい作画方法ではありませんよ。
無剣:絵の魂?
千丈:君が集中した精神の事です。
無剣:だけど、私は目の前の景色を描きたいだけなんです!
千丈:ですから、いい作画方法ではないと申したのです。
無剣:ではどうしたらいいんです?教えてくださいよ、この景色が描けるようになるだけでいいですから
千丈:それは……では筆の使い方からはじめましょう。
それから千丈は私に絵画の基本を叩き込み始めた。筆の握り方から、握り方と動かし方まで習得する事ができた。
丸一日過ぎ、私はようやく筆の使い方を覚えることができた。一番基本な方法だが、熟達するにはまだまだ練習が必要だ。
無剣:絵を描くのって本当に難しいですね。筆の握り方と動かし方だけでこんなにあるんですもの。
千丈:いえ、あなたの進歩は非常に迅速なものです。普通の人がこれらをすべて習得し、あなたと同じことができるには数ヶ月の努力が必要でしょう。
千丈はまるで普通な事を言っているみたいだが、私にとっては十分うれしい褒め言葉であった。
無剣:じゃあ、いつになったら絵を描けたと思います?
千丈:今試してもいいですよ。教わった筆の握り方と動かし方を忘れずに。
千丈に言われたまま、精神を養い、気力を一番豊かな状態にした。そして、教わった方法で絵を描き始めた。
千丈:ああ、そうだ!
千丈は淡々と頷いている。私の作品に満足しているようだ。
自分からするとまだまだ似てないが、千丈が満足するのを見て無性にうれしくなってきた。
せめてもの感謝
千丈への感謝を伝えるため、千丈にお菓子を送ることを決めた。
無剣:千丈!
千丈の家で彼に声をかけたとき、なぜか彼は空を見てボーっとしていた。
千丈:なに?
私が持っているものを見て少々混乱しているみたいだ。
無剣:お菓子を作ってきましたよ。
千丈:お菓子?
無剣:じーっとお菓子を見つめてどうしたんですか?食べてみてください!
お菓子から目を離さない千丈を見て、味わうように勧めた。
千丈:あ、ごめんなさい。ずっとどうやってこのお菓子を描けばいいか考えてました。今ひとつ食べます。
無剣:――味はどう?
千丈:うん……
無剣:まずかった?
千丈:いや、そうではありません。
千丈:お、おいしいです。
千丈:ただ……
無剣:ただ?
千丈:ただ食べ物には詳しくないので、おいしいかどうか判断しかねるかと……
無剣:おいしいって思ってくれればそれでいいんです!千丈さんのために作ったのですから。
千丈:大変気に入りました。とてもおいしいです!
無剣:そんなに堅くならなくても。絵画を教えてくれたお礼ですから。
千丈:では今日も学びますか?
千丈:君にもう一層上手くなれる方法を思いついたんです!ぜひ試してみてください。
無剣:うん……はい、もちろん。
どこからか引っ張り出したのか、作画の道具セットを取り出し、自ら筆を持って教えようとしている。
無剣:今日は自分で筆を持つのですか?
千丈:今度の方法は私がやるのを見ないと理解しにくいのです。私の手を見てください。
千丈はすばやく筆を動かし、わずか数筆で紙に大きな山を出現させ、そこの石は今にも落ちそうに生き生きとしていた。
無剣:うわあ、すごいです!もう一回見せてくれますか?
千丈:それはできません。今日の私の気力ではもうこれ以上描くことができません。
無剣:なぜ?
千丈:もう力がないので描けないのです。
無剣:力がない? こんな短い間に?
千丈:勿論。作画は非常に力を費やす仕事です。作品に注ぐ気力がなければ、出来上がる作品はただのガラクタです。
無剣:なるほど、なら今度は私がやってみます。ちなみにこの技法の名前は?
千丈:「皴法」といって、山や石を描くのに一番です。
千丈:さあ、やってみましょう。集中して精神を養い、心身の均衡を保つのです!
私はすぐ千丈のいった状態に入り、筆を持ち作画を始めた……
誰の絵か
私はそばの林に隠れ、千丈が作画するところを目に留めようとした。しかし、千丈はただ突っ立ってばかりで動かない。もう四時間も過ぎている。
私はついに隠れるのをやめ、千丈の邪魔をすることにした。
無剣:千丈!
千丈:おお、来ましたか。
無剣:はい。また勉強しに来ました。
千丈:確か今日は自分で練習するはずでは?
無剣:少々困難に会ったからです。
千丈:困難?どういった困難なのです?
無剣:千丈さん、私って絵を描く才能が備わっていないのでしょうか。いつも肝心なところがよくできず、出来上がって自分も満足できません。
勿論これは言い訳である。絵を描くところを盗み見にきたとはさすがに言えまい。
千丈:ええ、確かにそれは難しいですね。あなたはもうすでに絵画である程度の造詣を有しています。「真意」を把握し始めたようですね。
無剣:え?本当ですか?
千丈:本当です……それに、真意を把握する事は確かに非常に困難です。しかし、真意を把握できる方法を私は二つ知っています。
無剣:そんな方法があるなんて……どうか教えてください!
千丈:そのひとつが、前に教えた方法で、心身の均衡保ちながら、集中して精神を養い、それを絵に注ぎ込む事で絵に真意を与える方法です。
無剣:でも今の私じゃ無理です。難しすぎですよ。
千丈:ハハハハ、本来難しい方法ですので。私でもそれを簡単にこなすことはできません。
無剣:千丈さんが絵をあまり描かないのも、精神を養うためなのでしょうか?
千丈は頷き、私の疑問に肯定した。
無剣:この方法は今の私には難しすぎます。もうひとつの方法とは?
千丈:いいですね!
千丈:もうひとつの方法はもっと単純です。それは元々魂の備わったものを模倣することです。真意のある物事や景色をそのまま絵に写せば、真意のある作品に出来上がるでしょう?
千丈はその方法を言うと、まるで雷に打たれたように立ちすくんでしまった。
無剣:千丈さん、どうしたの?
千丈:ハハハハ、そうか、そうか、そういうことか!
突然大笑いし始めたかと思うと、千丈は紙に猛烈に描き込み始めた。十五分もすると、その作品は完成したらしい。
近づいて見てみると、なんと、描いてあるのはさっき私が山に立っているようすだった。
千丈:せ、千丈、何でこんなものを?
私はその絵の美しさに唖然としてしまい、それが私であると認めるのが恥ずかしいぐらいだった。
千丈:なぜなら、これこそ私に見つけることができる最も魂の篭ったものですから。
無剣:でも、なぜ目は描かないのでしょうか?
千丈:目を描いたら君でなくなってしまいます。君の目に宿る神気、どのような絵でもその真意を捉えることはできません。
無剣:ならば、なぜ私を描くことにしたんです?
千丈:なぜなら描きたいからです。さっき気づきました。私が画きたいのは、あなただけなのだと……
私は何を言えばいいか分からず、呆然と立ち尽くしてしまう。千丈がまた絵巻を広げ私を描いてゆくのを私はただ見つめていた……
同盟会話
○○の千丈:歪んだ裂け目の出現が頻繁になってきました。まずいですね。
○○の千丈:私たちの計画が失敗したら、もうどうしようもないでしょう。
○○の千丈:備えておかなければ……
○○の千丈:そびたつ雪山、木の葉が舞い散る仙島、物音ひとつない古墓……
○○の千丈:あぁ、この夢のような剣境をすべて絵に収めたい!
○○の千丈:あ……あなたは?
○○の千丈:……
○○の千丈:……
○○の千丈:この絵巻を描き終わるまで待ってください。
判詞
二句目 落葉と散り花と霞のような森
三句目 素早く筆を揮って海を描き
四句目 自由に筆を揮って天を描く
五句目 時に丁寧に筆を取り上げ
六句目 時に爽快に墨を撒く
七句目 巻物いっぱいの絵が画境となり
八句目 描く者が世間を離れて隠者となった
コメント(1)
コメント
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・歪んだ裂け目の出現が頻繁になってきました。まずいですね。
私たちの計画が失敗したら、もうどうしようもないでしょう。
備えておかなければ……0
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
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